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2019.10.09 Wed

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映画『WALKING MAN』 初監督となるラッパー “ANARCHY” にインタビュー

映画『WALKING MAN』 初監督となるラッパー “ANARCHY” にインタビュー

#HIP HOP#インタビュー#カルチャー#動画#映画#音楽

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ハードな境遇で生まれ育ったことを包み隠さずリリックにし、生々しく吐き出してきたことで支持を集めてきたラッパー、ANARCHY。そんな彼が、なんと映画監督としてデビューした。作品のタイトルは『WALKING MAN』。内気で、ひとと話すことが苦手な青年アトム(野村周平)があるときラップに出会い、やがてラッパーを目指していくようになるまでが描かれる。

 

だから『WALKING MAN』はラッパーによるラップについての映画だ。だが同時に、貧しさのなかで言いたいことを言えずに鬱屈するひとりの青年についての映画であり、その姿はいまこの国で苦しみながら生きるすべてのひとに刺さるものでもあるだろう。なぜこの映画が生まれたのか、この映画を通して伝えたかったことは何なのか。ANARCHYに訊いた。

 

Photo / haL Text / Tsuyoshi Kizu

 


 

 

——映画を撮りたいという想いが昔から強かったとのことですが。

 

ANARCHY:映画って、音楽と同じで一生のバイブルになるようなものですよね。音楽では表現できないものが映画にはあると思って。映像で観たときに、主人公の履いてたスニーカーがカッコいいから真似したいとか、そういうのって音楽にはない部分なので。20代半ばくらいから、いつか俺も映画作りたいなーと思っていました。それは軽い気持ちだったんですけど、それから10年くらい経って、「映画でしかできへんことやりたいなー」って思って、そのときが来たって感じですね。

 

 

——なるほど。ラップについての映画が撮りたい気持ちが大きかったのですか?

 

ANARCHY:ラップじゃなくても良かったんですけど、いま僕が表現できることとか、持ってる武器とかっていうのがラップでした。映画を撮ったこともないし、技術もないし。

 

 

——世のなかにリアルなラップの映画があまりないなっていう想いもあったのでしょうか。

 

ANARCHY:そうですね。ストーリーやモチーフで言うと、もちろん、『SR サイタマノラッパー』なんかもラップ映画ではあるので、まったくないことはないと思うんですけど。ただ、ラッパーが作るラップの映画っていうのは僕にしか撮れないのかなと思いました。そこは俺にしかできへんし、新しいんじゃないかなと。

 

 

映画「WALKING MAN」より

 

 

——たしかに。そこから脚本の梶原(阿貴)さんとどのように進めていったのでしょうか。

 

ANARCHY:脚本については梶原さんがほとんど進めてくれました。僕は大体の構造――こんな主人公にしたい、こんなストーリーにしたい、こんなシーン入れたいっていうのを伝えて、それを脚本にしてくれたって感じです。

 

 

——主人公のアトムはすごく貧しいですけど、それもいまの日本にもリアルにあることだと思いました。彼のキャラクターはどのように作っていったのでしょうか。

 

ANARCHY:何も言いたいことがないひとが歌うことはないと僕は思っていて。僕も書きたいことがなくなったら音楽やらないと思うので。主人公のアトムは吃音症というのもあるし、もともと内気な性格で、言いたいことがちゃんと言えなかったりする。でも、それじゃダメだよっていうメッセージを僕は伝えたかった。そういう子がいろいろな言いたいことを溜めていくなかでラップというものに出会って、「言いたいことを言っていいんだ」と気づいていく。言いたいことは言っていいし、言わなきゃダメだと思わされるキャラクターにしたいなと思って。

 

 

——なるほど。

 

ANARCHY:いい環境にいなくて、しゃべるのも苦手――それは僕のなかでマストで決まってましたね。

 

 

 

 

——アトムのキャラクターに合わせてラップを書くという体験はいかがでしたか。

 

ANARCHY:ひとのために書くということをしたことがなかったんですけど、アトムに関しては、脚本作るときからいっしょにやってたのでアトムの気持ちになりやすかったです。ひとに合わせて曲を書くというのは大変な部分もあったし、面白い部分もありました。それに、曲を書くことで自分のなかでアトムのキャラクターがはっきりした部分もありましたね。

 

 

——それはアトムのなかに入って書いた感じだったんですか?

 

ANARCHY:アトムになって書きましたね。そうじゃないとあの映画にならないと僕は思っていて。主人公が自分の言葉で、自分の街のこと、思ってること、自分の環境を歌うことが、僕のなかでストレートなヒップホップ、ラップな気がして。

 

 

——ANARCHYさんの経験や想いが重なる部分もあったと。

 

ANARCHY:そうですね。ただ、僕だけじゃなくてすべてのラッパーがそうだと思うし、少なからずみんなに当てはまる部分があるんじゃないかなと思ってます。そういう部分を曲で表現したいなと思っていました。

 

 

——ラップの監修という部分もそうですし、ANARCHYさんは監督として野村(周平)さんとどのような部分をとくに話されましたか?

 

ANARCHY:そこはラップの部分だけです。さすがの役者魂というか、脚本を読んで、アトムの状態で現場に来てくれたので。

 

 

 

 

——はじめての映画監督というのはどういう経験でしたか?

 

ANARCHY:いやあ……、小学生前の子がお父さんなしで自転車乗る感じですね。

 

 

——(笑)

 

ANARCHY:絶対こけるやろ、みたいな。でもそれは、お父さんがいるから支えてもらえるみたいに、いろんなスタッフが支えてくれたからできたことで。映画作りたいっていうのがはじめに漠然とあったんですけど、自分が監督できるとは思ってなかったです。でも、「お前の映画やねんからお前が監督しろ」と、周りのひとの後押しもあって。「そのほうが失敗しても後悔しないやろうし、自分が作りたいものを作れ」と(企画・プロデュースを務めた漫画家の)髙橋ツトムと梶原阿貴が言ってくれて。じゃあ、失敗してもいいからやってみよう、という。はじめはそれぐらいでしたね。

 

 

——実際にやってみて、映画作りと音楽作りに共通点を感じることはありましたか?

 

ANARCHY:実際の作業はまったく違うなと思ったけど、ひとつのメッセージを伝えるという意味ではいっしょの部分もありましたね。2時間の映画のなかで伝えたいことはひとつやったりするのと、アルバムに10曲あっても聴かせたい曲は1曲やったりとかするのは似てるな、と。映画を作ってて、ひとつのメッセージを伝えるためにすべてのシーンがあると思ったんですね。そこに関しては、音楽作りといっしょな気がしました。

 

 

——なるほど。

 

ANARCHY:1曲のなかでも、ひとつのフレーズを言うための他のすべてのフレーズやったりするんで。この映画も静かに始まって、派手な映画でもないし。ただ、その後に来るシーンのための静かな始まりやったりする。そういう部分は共通してるかもしれないです。

 

 

映画「WALKING MAN」より

 

 

——そのメッセージという部分と関係するかもしれませんが、『WALKING MAN』には貧困の問題とか、何度も出てくる「自己責任」という言葉とか、いまの日本の閉塞感がすごく描かれていますよね。そういったムードがこの映画に与えた影響は大きいのでしょうか。

 

ANARCHY:僕自身が世のなかに不満があるわけではないんですけど、アトムぐらいの年のときはそうやったと思います。ラップ以外の音楽なら「愛してるよ」って歌ってればいいと思うんですけど、ラップってそのときの怒りや不満をこめられるものではあると思うんですよね。そういう、ラッパーになる瞬間の初期衝動みたいなものをアトムを通して表現できたらな、と。

 

 

——ええ。

 

ANARCHY:ただ、ラッパーになれなくてもいいんですよね。自分が思ったことをちゃんと伝えないと、ひとに伝わらなかったりするじゃないですか。家族でも、恋人でも、友だちでも。伝えないといけないことを伝える、その窓口としてラップを武器にするっていうのがこの映画の肝になってる部分もあると思うし。

 

 

——厳しい境遇にいるひとたちにとってラップがきっかけになるという。

 

ANARCHY:僕もそう思ってラップ始めたし、そうやってラップ始めたやつがこうやって映画作ったり、音楽作ったり、好きなことをしてひとに夢を与えられるかな、とも思うし。それを聴いて、みんな勇気が出てくれたらいいなとも思いますし。それはひとに対してもそうやし、自分に対しても、言いたいことがないとものは作れないと思います。

 

 

映画「WALKING MAN」より

 

 

——そういう意味では、ラップバトルのシーンが印象的ですよね。あそこはすごくリアルなラップのシーンを映しているし、ストーリー上の重要な場面でもあります。あのシーンはどういうところを意識されましたか?

 

ANARCHY:1回目のバトルのときは、アトムはラッパーじゃないですよね。その段階ではまだラップ映画になってない。ラッパーじゃない子がステージに上げられてラップできるわけないし。ただ、上手下手じゃなくても、そこで何も言えなかった自分にアトムは悔しさを感じてると思う。それが大事なシーンなんですね。

 

 

——たしかに。

 

ANARCHY:だから次のバトルのシーンも、僕は勝ち負けを描きたくなくて。アトムが歌うこと、自分の言葉を発することが何より大事で、だから相手をディスることもさせたくなかった。それも1回目の悔しさがあったからこそなんですよね。だから、あのシーンは僕のなかではバトルを見せるシーンではなくて。言いたいことを言う、という。好きなシーンですね。

 

 

——そこはすごく伝わってくるシーンだと思います。僕はそういう意味も含めて、とくに若い世代に観てほしい映画だと思うのですが、ANARCHYさんからは、この映画のどういった部分を若いひとに観てほしいと思いますか?

 

ANARCHY:みんな少なからずアトムと同じ気持ちになったりすると思います。僕は今回、無駄なことは省きたくて。アトムだけを追っかけたかった。ひとっていうのは誰もが主人公だから、そういう部分で自分に置き換えて観てもらえたらと思います。それはラップでなくてもいい。何でもいいから自分の好きなもの、言いたいことを見つけて、口に出してひとに伝えていってほしい。あと、夢が見つからないひとがいるということもわかってほしくて。夢を見つけて、それを叶えたいなら、そのことに感謝して大切にしてほしい。この映画を観て、一歩踏み出せたらなと思います。

 

 

 

ANARCHY

京都・向島団地出身。父子家庭で育ち、荒れた少年時代を経て逆境に打ち勝つ精神を培い、成功への渇望を実現するため、ラッパーとして活動することを決意。2005年のデビュー以降、異例のスピードで台頭し、京都のみならず日本を代表するラッパーの地位を確立。2014年にはメジャー・デビューを果たし、更にスケールアップした存在感でリスナーを魅了している。

 


 

 

© 2019 映画「WALKING MAN」製作委員会

 

映画「WAKING MAN」

10月11日(金)全国ロードショー

監督:ANARCHY 脚本:梶原阿貴

企画・プロデュース:髙橋ツトム

出演:野村周平 / 優希美青 / 柏原収史 / 伊藤ゆみ / 富樫 真 / 星田英利 / 渡辺真起子 / 石橋蓮司
主題歌:ANARCHY “WALKING MAN”(1% | ONEPERCENT)

 

公式サイト

https://walkingman-movie.com

 

 

 

 

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