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2018.10.16 Tue

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話題のドキュメンタリー映画「愛と法」を手がけた、戸田ひかるとは何者!?

話題のドキュメンタリー映画「愛と法」を手がけた、戸田ひかるとは何者!?

#インタビュー#ドキュメンタリー#映画

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同性パートナーである二人の弁護士と、彼らに相談を寄せる依頼者を通じて、日本社会に潜む問題を描くドキュメンタリー…なんて堅苦しい説明だと「愛と法」の面白さが伝わらないから、野暮を承知で断言したい。これは現実のヒーローを描いた作品だと。あなたが毎日に息苦しさを感じているなら、勇気が湧き、映画館を出るや「あそこのシーンがかっこよかった」とか「あの言葉しびれたね」と、誰かに話をしたくなるだろう。スクリーンの中と現実が地続きだから、鑑賞後、世界が違って見えたり、もしかすると、この映画で蒔かれたタネが芽吹き、花を咲かせ、やがて社会を変える大きな流れになるかもしれない。そんな可能性を秘めた作風に、今までのドキュメンタリーや報道番組とは違うアプローチを感じた。

 

 監督は戸田ひかるさん。「愛と法」制作中にロンドンから大阪へ移住し、現在も大阪市内で暮らしている。作品の舞台となった南森町で話を聞いた。

 

Text : moriman


 

 

ロンドン時代

 

 

 

 

ー戸田監督のご出身はどちらなんですか?

 

神奈川県の小田原です。10歳までしかいなかったから、詳しくないんですが。当時、タモリが小田原からヘリコプターで通勤してるって噂がありました(笑)。

 

ーそれは初耳です。戸田さんはその後、日本を離れ10代をヨーロッパで過ごされました。オランダのユトレヒト大学で社会心理学を、ロンドン大学大学院では映像人類学とパフォーマンスアートを学ばれたということで。

 

そうですね、勉強しました。

 

ー社会心理学とパフォーマンスアートは何となくわかるんですが、映像人類学って初めて聞きました。どんな学問なんですか?

 

エスノグラフィーと呼ばれるフィールドワークをベースとした社会の仕組みや文化、人と人の関わり方を研究する学問です。参与観察という研究手法を行い、リサーチャーとして調査対象の生活現場に身を置き、観察し記録していきます。

 

ーカメラを回すんですか?

 

はい、リサーチ映像を撮るんです。記録しながら観察し、編集しながら分析する。アウトプットこそ違いますが、プロセスはドキュメンタリーに似ているんです。

 

 

 

ー映像の資料を製作するんですね。

 

そうですね。私は主にソーシャルリサーチの仕事をロンドンではやってました。

 

ー具体的にはどんな内容なんですか?

 

イギリスにはN H Sという国営の国民医療サービスがあります。そこで、例えば心臓疾患を持っている患者さんに、医療サービスがどのように浸透しているのか、アンケートだけでは見えない実態を調査するため、私みたいなリサーチャーがカメラを持って一日密着したりします。買い物してるところ、家のどこに薬をキープしていてるのか、病院について行って、お医者さんを信頼している様子や、不信感があるなら、それも撮る。その映像を編集して、本人の態度や行動から見えるものを観察します。

 

ーなるほど。確かにドキュメンタリーに通じますね。

 

エスノグラフィーはベースになっていますね。カメラマンもプロデューサーも映像人類学を勉強していたので、撮影者が撮られる側に与える影響や倫理的な部分、リサーチャーとしての構え方を共有できました。今回も、観察しながら記録するというスタンスで始めました。

 

ーロンドン大学院で同級生だったイラン系イギリス女性、エルハム・シャケリファーさんがプロデューサー、同大学院の後輩でイギリス人男性のジェイソン・ブルックスさんがカメラを務められたそうですが、撮影はどのように進められたんですか?

 

2014年の10月に下見を兼ねた第一回撮影を行いました。その時、カメラマンのジェイソンに2週間くらい滞在してもらって、弁護士さんと相談し、とりあえず撮れるものからカメラを回しました。

 

 

 

そして大阪へ

 

 

ー本作の主役である南和行弁護士と吉田昌史弁護を選ばれたのはどういう経緯で?

 

南さん、吉田さんとは2013年に出会いました。別のプロジェクトで協力してもらったんですが、その時、素敵なカップルだなと思って。人柄に惹かれました。あと弁護士という職業柄、普通では見えにくい日本の側面を扱われていている。そういう部分を撮りたいと考えました。

 

 

©Nanmori Films

 

ーポスターでは優しい笑顔ですが、知らない方にお二人を紹介するなら、なんと説明されますか?

 

彼らは大阪の良いところを体現していると思います。諦めない根気強さ、ユーモアを糧に、時には喧嘩し、傷つきながらも、お互いの弱い部分を受け入れ、不条理にさらされながら、司法を使って困っている人たちの弁護活動をしている。

 

ーなるほど。南さんと吉田さんは、弁護士夫夫(ふうふ)として南森町で「なんもり法律事務所」を共同経営されているんですよね。

 

二人にとって依頼者の相談はたぶん他人事じゃないと思うんです。彼らもセクシャルマイノリティとして色々な体験をしてきたからこそ、自然と他の人を思いやれる。そういう人間くさいところが魅力です。

 

ー映画の中でも、表情や言葉が自然で、弁護士さんのイメージが変わりました。人間らしさを感じるというか。

 

だから、そんな彼らに来る依頼者も人間くさい人たちなんです。

 

ー確かに、俺もなにかあったらお二人にお願いしようと思いました。笑

 

弁護士を雇うって日本ではハードルが高いじゃないですか。困った上で、何とかしなきゃと思い立って足を運ぶ人が多い。だから、勇敢な姿というか、単なる被害者じゃなく、自分たちの現状や状況と向き合う人たちを撮りたいと考えたんです。

 

 

©Nanmori Films

 

ー映画では、女性器をモチーフにした作品で逮捕された芸術家のろくでなし子さん、君が代不起立で処分された先生、戸籍のない無戸籍者の法廷闘争がクローズアップされます。

 

撮影当初はロンドンに住んでいたので、カメラマン2人で大阪のウィークリーマンションを借りて法律事務所に通いました。でも、あまり撮れなかったんです。当たり前だけど、弁護士のお仕事ってすごいデリケートで、プライバシーは厳密に守らないといけない。だから、撮れるものは自然と、弁護士さんから依頼者さんへ撮影をお願いできる案件になりました。

 

ー南弁護士は別のインタビューで「もともと世間の注目を集める裁判で、多くの人に問題を知ってほしいと考える依頼者なら、撮影に協力してもらえるかもしれないと考えた」とお話されています。

 

そうですね。主に扱っている3つの裁判は、行政や国を相手取った社会的主張があるものになっています。映画には使っていない案件など色々撮らせていただきましたが、最終的に残ったそれぞれのストーリーは自然的にセレクトされました。

 

ーテーマに戸田監督が選ばれたように感じますが、製作にあたってのご苦労は?

 

映像に残すということは可視化しないといけないので、そこは難しかったです。たとえば無戸籍は象徴的なんですが、当事者の実態が見えにくいからまったく解決されないまま放置されている。

 

 

©Nanmori Films

 

ー僕も映画を見るまで知らなかったんですが、本当に透明人間みたいな感じですよね。

 

何も悪いことをしていないのに、母親の権利が全く反映されていない古い法律のせいで、子供が何か悪いことをしたかのように隠れて生きていかなきゃいけない。

 

ー日本には「法的離婚後300日以内に生まれた子どもは前夫の子と推定される」という民法があり、離婚したお母さんが新たなパートナーと300日以内に子どもができた場合、前夫の子として出生届を出す必要がある。それが出来ないと、子どもは無戸籍状態になり、学校へ通えず、保険証や身分証がないので、病院に行ったり、働くことも困難になる。一説では日本には1万人の無戸籍者がいると言われています。

 

無戸籍者は、可視化しなければならないと思ったんですが、どうしたらいいか悩んだ案件でした。見せることで発生するリスクが特に大きい人たちなので、たとえ意味があるとしてもこちらからリスクを強いることはできない。だから、自分たちの問題を知って欲しいという人を探す必要がありました。

 

ー映画にはナツオさんという無戸籍者が登場されます。

 

彼は発信することの意味、この問題について、広く知ってほしいという気持ちがすごく強かった。だからナツオさんがいたから撮れたというか。彼がいなかったら難しかったですね。

 

 

 

映画とは「問いかけ」

 

 

 

 

ー劇中、南弁護士が「意見表明は民主主義において不可欠」とお話しされるシーンがあります。声を上げることの重要性はテーマの一つだと思いました。あと、もう一つ印象的だった場面が、吉田弁護士の「僕は法律が世の中を変えていけると思う。信頼できなくても期待している」という言葉でした。そこで質問なのですが、戸田監督は映画で世界が変えられると思いますか?

 

あそこは私もすごく響きました。君が代不起立裁判の直後で、裁判官が司法の独立を放棄し、マイノリティの人たちが守られるべき存在ではないという態度を取った。そのことに対して私たちはダブルでショックを受けたんです。でも、吉田さんは「ぼくはやっぱり、司法は信頼してないけど、期待している」ってサラッと言うんですよね。傷つくのはわかってるけど、突き進むみたいな。それって、すごい勇気のいるスタンスだなと思ったんです。

 

ーかっこいいですよね。なんかヒーロー映画を見ているような気持ちになりました。

 

それを自分に置き換えたら、私も社会とか人を信頼してはいないけど期待しているから映画を撮っているのかなって。全ての人に受け入れられることはないじゃないですか。お互い理解できない部分の方が大きい中で、社会が成り立つためには、相手を思いやる言葉や、他者を気遣うことが必要で、その気持ちに賭けているっていうのはあります。

 

ーやっぱり、戸田監督が映画を撮られる心情と、重なる部分があったんでしょうか?

 

うん。まぁ問いかけなので。私は映画が答えを出すツールだとは思ってないんです。「愛と法」は私が日本に引っ越してきて感じた疑問を追って、辿り着いた物語。なぜ君が代を歌わなきゃいけないんだろう、ろくでなし子さんの作品がどうして猥褻物にされるんだろうとか。多分、私は部外者だから、日本にずっと住んでいたら当たり前すぎて、考えもしなかったことに対して、なぜかなと思うんです。

 

ーなるほど。外部の視点で撮られている?

 

それは私が人類学や社会心理学をやってきたことも関係があると思います。どうしてだろうってリサーチャー的な考えをぶつけていったら、弁護士の二人も同じ疑問を持って活動されていた。「なぜ、みんなと違うことで排除されるんだろう」って。彼らの視点から、私が不思議に思うことを追求していったら色々見えてきたというのがこの作品ですね。

 

ー長年、大阪に暮らしている者としては、映画の中で、大阪の風景がキラキラと輝いていて、戸田監督の大阪への愛が伝わってきました。

 

ありがとうございます。この映画はアウトサイダーである私の大阪へのラブレターでもあるんです(笑)。

 

 

 

戸田ひかる 10歳からオランダで育つ。ユトレヒト大学で社会心理学、ロンドン大学大学院で映像人類学・パフォーマンスアートを学ぶ。10年間ディレクターと編集者としてロンドンを拠点に世界各国で映像を制作。作品はNHK、BBC、ABC、The Guardianなどで放送されたほか、メルボルン国際映画祭など多数の国際映画祭で上映。本作の撮影で22年ぶりに日本で暮らす。現在は大阪在住。

 

 


 

愛と法

STORY  カズとフミは大阪の下町で法律事務所を営む弁護士夫夫。仕事も生活も二人三脚のふたりのもとには、全国から困っている人たちが相談にやってくる。セクシュアル・マイノリティ、養護が必要な子どもたち、戸籍を持てずにいる人、「君が代不起立」で処分された先生、作品が罪に問われたアーティスト…。それぞれの生き方と社会のしくみの間で葛藤を抱える人たちだ。ふたり自身も法律上は他人同士のまま。そんなある日、2人の家に居候がやってくる。突然居場所を失った少年・カズマくん。3人の新しい生活が始まった…。

 

 

シネ・リーブル梅田(大阪)にて絶賛公開中
10月6日(土)より、京都シネマ(京都)にて公開、
ほか、元町映画館(神戸)、豊岡劇場(豊岡市)にて順次公開

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